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インタビュー

きくちさかえ
インタビュー Vol.3
きくちさかえ
出産育児環境研究会代表
一般社団法人社会デザイン研究所特別研究員(博士:社会デザイン学)
立教大学兼任講師

自らの出産を機に、マタニテイコーデイネーターとして指導にあたる。世界16か国以上の出産を取材。現在は研究者、クリエイターとして出産育児の支援や研究、ヨガの指導を行う。著書に「みんなのお産」(現代書館)「イブの出産・アダムの誕生」(農文協)他
長野県茅野市に住まい、東京でも仕事をしながら、大学講師、ヨガ講師、写真家として幅広く活躍しているきくちさかえさん。「教える、文章も書き、写真も撮る」こうしたひとつではない、「百姓的な生き方」について伺いました。
Q: きくちさんにとって「ふるさと」とは何でしょうか?
A: 東京生まれで東京育ちの私は、八ヶ岳に引越しをするまでは東京人というアイデンティティで生きてきたように感じます。子ども時代は、東京といっても三鷹市のはじっこのほうに住んでいたので、昔はとても田舎でした。家の前はキャベツ畑で、小学生の頃はそこでころげまわって遊んでいました。だからよく言う都会育ちではありません。東京はコスモポリタンな場所ですから、いわゆる「ふるさと」と呼べるような場所として認識している人は、果たしてどれくらいいるでしょうか。海外に出て思うのは、日本が私にとって「ふるさと」だということ。日本の全体としてのイメージが私の「ふるさと」のように思います。
きくちさかえ
長野県茅野市自宅
Q: プロフィールに大学講師、ヨガ講師、写真家、一方で衆議院議員の政策秘書を2年勤めた。あるいはマタニティコーディネーターとして世界各地を訪れ、本も出されている。その多彩な歴史、キャリアを簡単にお聞かせいただけないでしょうか。
A: 私は20才で結婚したので、20代は専業主婦でした。40年前とはいえ、かなり早い年齢での結婚でしたが、女性は結婚して子育てをする人生を歩むのが、まだあたりまえとされていた時代でした。短大卒で、しかも就職経験がなく結婚し、専業主婦になったものですから、その後離婚したときに、どのように仕事をしていくのか、いちから考えなければなりませんでした。子どもを出産したのをきっかけに、お産にとても興味を持つようになり、20才からヨガをやっていたこともあって、マタニティの人にヨガを教え、出産関係の雑誌に記事を書いて、写真を撮る仕事をフリーランスではじめました。30代はカメラを持って年に数回海外に行き、欧米の出産事情を雑誌に寄稿したり、本を書いたりしていました。40代になって子育てが終了したこともあり、48才で大学院へ入学。修了後、縁あって衆議院議員の政策秘書になりました。私は、一般的なキャリア形成とはむしろ逆のコースを歩んできたと言えます。子どもを産んでから、キャリア形成を始めたのですから。でも、子どもを産んだ経験は無駄ではなく、むしろその後の仕事の基盤にすることができました。キャリア形成には、さまざまな形があっていいのではないでしょうか。
きくちさかえ
ストーブの火が暖かい部屋
Q: 都市部の若者が地方を訪れ、人々と交流することで何か生まれる。そういう可能性についてどうお考えですか。また、そういう取り組みをされているともお聞きしていますが。
A: 八ヶ岳が見渡せる草原のペンションで、都会の親子を招いてワークショップをしています。広々とした自然の中で遊ぶことを提案していますが、都会の子どもたちは、いきなり広い草原に出ても遊び方が分からないことがあります。幸い、そのペンションには小学生と保育園に通う女の子がいて、いっしょに遊んでくれるんです。都会の子どもたちは、その子たちの遊びを真似することで、すぐに馴染んでいきます。子どもの地域交流です。地域間の交流は、人と人の交流の中から自然に培われていくこともあります。農作業やYOGAをしながら、自然の中でゆっくりくつろぐ時間を女性たちと体験するワークショップもやってみたいと思っています。
きくちさかえ
きくち氏の父親が残した絵画
Q: 若者に地方の魅力を気付かせるうえで大切なこととは何でしょう。都市と地方、それぞれのメリット、デメリットとは?
A: 今、地方では若い世代の文化が成熟しています。都会に出ていかなければできないことは、昔ほど多くはありません。おしゃれなカフェやパン屋、イベントなどもたくさん生まれ、都会とは異なるローカルな文化が見直されています。移住してみて感じたのは、私たちが毎日目にするメディアの情報や政治・経済のあり方が、東京中心に形成されているということです。地方に暮らしたからこそ、流通しているトレンドの価値観に偏りがあることが見えてきました。観光として地方を訪れるだけではなく、地元の人々と触れ合う機会を持つことで、さまざまな考え方や生き方があるということがわかるのではないでしょうか。「知る」ことで視野が広がり、選択肢に幅を持たせることができる。もちろん移住するとなれば、仕事の面で難しいこともあるかもしれません。就職先は都会のように多くはありませんが、自然が好きな人なら一次産業への道も開けています。そして保育園の待機児童はゼロです。子どもにとってものびのびと暮らすことができる環境は整っている。都会か地方かという二者択一ではなくて、都会を仕事の基盤として、地方と行き来する生活も、ネット社会だからこそできるようになっています。都会と地方を結ぶ人には、その役目があり、地元に貢献することはできるはずです。
きくちさかえ
Q: 最後にきくちさんの旅のスタイルを教えてください。
A: 旅はもうずっとひとり旅です。日程を決め、コースを決め、アクセス方法や宿泊先、会う人を決めて、ひとりで出かけていく。チベットの高原や北海道のアイヌの里でひとりキャンプをしたこともあるし、アマゾン奥地の民家にひとりで泊まったこともあります。行きたいときに、行きたい場所に行くことを優先しているうちに自ずとひとり旅になってきたのですが、私にとってそれは仕事でもあります。行った先々で赤ちゃんの写真を撮りながら、お産の話を聞き、まとめていく。世界各地を巡りました。人がいるところには必ず赤ちゃんがいて、お産の話があります。人が生まれ、死んでいくということが人間の生活であり、大切な営みであることがわかる。「ああ、そうなんだ」とわかることが私の旅の目的かもしれません。人生そのものが旅のようなものです。